EPUB編集ツール「Sigil」が苦境!? いったいどうなるの?
停滞するSigilの開発
電書ちゃん 無料で利用できるEPUBエディタの代表的存在といえば Sigil(シジル)よね。
ろす ああ、僕も昔はさんざんお世話になったよ。
電書ちゃん ところがこのSigil、どうやら開発に行き詰まってるらしいの。今月に入って開発ブログにこんな記事が掲載されてるわ。
ろす 僕は宗教上の理由で英語の記事が読めないので、内容を3点に整理してオナシャス!
電書ちゃん はい、要約してあげたわよ。あんたのためじゃないからね。読者のみんなのためだからね。
- レポジトリをGithubに移して開発を続けてきたSigilだが、活動は停滞している
- Sigilの停滞を見て、Calibre(キャリバー、電子書籍総合管理ツール)開発者のKovid氏が編集ツールにSigilの機能を取り入れ始めている
- ユーザーの皆さんはSigilが使える間は使ってね。でもダメだったらCalibreを使ってください。CalibreにSigilのコードは使われていないけど、Sigilの魂は受け継がれているから
開発者同士の友情って美しいわね。
ろす うん、でも寂しいね。まだ開発終了を宣言したわけではないみたいだけど。
「Sigilは使っちゃダメ」が日本のプロの常識
ろす さてそんな苦境にあるSigilですが、それが日本の制作現場への影響することはないでしょう。というか「Sigilは使っちゃダメ」なのがプロの常識。Adobe InDesignの書き出すEPUBが使い物にならないのと同じくらい常識。
電書ちゃん それはどうしてかしら(棒)
ろす それを解説するにはEPUBのバージョンについて説明しなくちゃね。
EPUBには米国を中心に長い間使われてきたバージョン2の系統と、現在の日本で主流となっている新しいバージョン3の系統があります。
電書ちゃん 区別するために、前者をEPUB 2、後者をEPUB 3と呼ぶことにしましょう。
ろす そしてEPUB 2とEPUB 3の簡単な比較表を作りました。
EPUB 3 | EPUB 2 | |
仕様完成時期 | 2011年 | 2007年 |
縦書き・ルビ・右開きなど | ◯ | ☓ |
固定レイアウト | ◯ (2012年より) | ☓ |
オーディオ、ビデオ | ◯ | ☓ |
JavaScript | ◯ | ☓ |
音声同期 | ◯ | ☓ |
備考 | HTML5べース | XHTML1.1ベース |
電書ちゃん EPUB 2は横書きの静的なコンテンツを表現するには十分だったんだけど、日本語レイアウトや「電子ならではの(笑)」機能を実現するには、力不足だったのよね。
ろす だから今日本で主流となっている新しい電子書籍市場はEPUB 3を出発点にしているといえます。ストアもビューワーもEPUB 3が前提。
一方、すでにEPUB 2が浸透していた米国ではEPUB 3への移行に時間がかかっていて、制作ソフトもEPUB 3に対応していないことが多いです。
SigilもCalibreもEPUB 2しか作れません。
SigilにEPUB 3対応して欲しいって要望はずっと前から上げられてきたんだけど、対応できずに行き詰まってしまったみたいなんだな。
どうしてSigilでEPUBを編集してはダメなの?
電書ちゃん でも縦書きEPUBの編集にSigilを奨めてる記事とか見かけるわよね。
ろす それが困りものでさ、SigilでEPUB 3を編集するとコードを強制的にEPUB 2に書き換えちゃうんだよね。その結果、EPUB 3とEPUB 2のコードが混在した異形のEPUBファイルが出来上がってしまうんだ。
ちょっと実演してみるね。
- 正しく作られたEPUB 3のファイルをSigilで開いてみる
- Sigilで内容を変更せずにファイルを保存する
- 保存したファイルを EPUB Validator で検証してみる
- エラーど〜ん
で、エラーがあるってことはつまり…
- iBookstoreやGoogle Play Booksなどのストアで審査で落とされるので売り物にならない
- それから電書協のガイドにも準拠したことにはならない
- 今のところKindleストアでは販売させてもらえてるみたいだけど、そんな状況が続く保証はない
検証の重要性については、こちらの記事を参照してちょん。
そんなわけでEPUB 3の制作にSigilは使えません。少なくともプロの現場では。
アマチュアの人もこうしたデメリットについては知っておいてほしいし、できることなら使わないで欲しい。セルフパブリッシングの入門書なんかで「Sigilを使いましょう」と書いてあったら、残念ながらその著者は素人さんてことです。
電書ちゃん ちょっと、そういう言い方ってひどくない? その人だって情報の少ない中、自分の得たノウハウが誰かの役に立てば、と善意で書いてるかもしれないのよ。
ろす 地獄への道は善意で舗装されているんだよ!
電書ちゃん ろすちゃんの話は、頭の堅い原理主義者の主張に聞こえるかもしれないけど、できるだけ正確な技術情報を発信するのもこのブログのミッションだから、読者のみんなは生暖かく聞いてあげてね。
次回も続くよ
ろす もっと話したいことがあるけど、長くなってきたので次回の記事にまわそうっと。僕もいつかはSigilがEPUB 3に対応してくれると思ってたから、この停滞は残念だなあ。
電書ちゃん EPUB 3の制作環境はなかなか整わないわね。
ろす ところがあるんですよ。簡単に仕様に準拠したEPUB 3を作れる画期的なツールが!
電書ちゃん え?本当?それはいったい何?
電書ちゃん あんた自前のサービスでも遠慮無くオチに使うのね。Sigilの代わりとして求められてるのは、もっと小回りの効くツールのはずよ。
でも今日はこの辺で。バイバイ、またね。