EPUB-WEBは今後の電子出版の方向性を示す重要な取り組みになるかもしれない。
先日のエントリを書いた際に、少しだけ触れたEPUB-WEBについて、もう少し詳しく述べておくことにする。
Digital Publishing Interest Group(DPUB IG)
EPUB-WEBは昨年、Digital Publishing Interest Groupの活動の中で提唱されたビジョンだ。
- Digital Publishing Interest GroupはW3CのInterest Group(IG)のひとつ。
- IGは特定の専門分野における利害関係者の要件やユースケースを収集することを目的としたグループ。仕様の勧告は行わない。
- 共同議長の一人としてIDPF(EPUBを作っている団体)のCTOであるMarkus Gylling氏が就任している。
- メーリングリストに参加するには件名を「subscribe」としたメールをpublic-digipub-ig@w3.orgに送ればよい。
EPUB-WEB
EPUB-WEBの概要を以下に述べる。
- EPUB-WEBは2014年10月23日にBiB Conferenceで明らかにされたビジョン。
- ポータブル文書がオープンウェブプラットフォーム(OWP)の完全にネイティブな市民になること
- ウェブとポータブル文書の乖離をゼロにすること
- この時使われたスライド Bridging the Web and Digital Publishing
- これを元にホワイトペーパーが作られた。
- なお、ポータブル文書とはEPUBなどオフライン環境で用いる出版物の抽象的な呼称だと考えればよい。このコンセプトはBill McCoy氏(IDPFのディレクター)がWebとEPUBの違いを考察した一連の記事に詳しい。
- Portable Documents for the Open Web (Part 1)
- Portable Documents for the Open Web (Part 2)
- Portable Documents for the Open Web (Part 3)
- 日本語訳したものがこの本の10章に収められている。
- 出版社/メーカー: 株式会社ボイジャー
- 発売日: 2013/11/21
- メディア: Kindle版
- この商品を含むブログ (2件) を見る
- EPUB-WEBはあくまで仮称。
- Webの乖離が招く不都合と、融合によって得られるメリットを論じる(この記事では省略)
EPUB-WEBが取り組む領域
上述のホワイトペーパーではEPUB-WEBでは次のことに取り組むとしている。
ポータブル/オフライン文書の汎用的なアーカイブフォーマット
- Zipコンテナの限界。
- ストリーム可能なパッケージフォーマットPackaging on the Webを視野に入れている。
出版物の全体構造の取得
- EPUBの目次やガイド、
spine
などは大規模で複雑な出版物では重要だがシングルページの文書にとっては過剰。 - EPUB-WEBではデフォルト値を定義することで、これらの情報オブジェクトを省略可能にするべき。
文書とフラグメント識別子
- ポータブル文書のフォーマットにはHTTPアドレスがない。
- 学術領域ではDOIやCROSSREFがURNリゾルバサービスを提供しているが、商業分野はそうなっていない。有償かつ登録手続きが必要なのも多様なユースケースにそぐわない。
- フラグメント識別子EPUB-CFIは出版物内部の参照ができるが、オンラインとオフライン/ポータブルの状態の変化を扱えない。
- EPUB-WEBは文書とフラグメントを識別できるURIスキームを定義するべき。
メタデータ、発見
- EPUB-WEBはオンライン/オフラインに左右されない基本的なインラインのメタデータレコードの構文を定義しなければならない。
- EPUB-WEBでは最小限の必須メタデータ語彙を定義するが、それ以上の語彙は各ドメインに委ねる。
スタイリング、レイアウト、ページ表現
- Webのタイポグラフィやレイアウトは出版社の要求に応えられていないが、それぞれの問題はCSS WGの中で時間をかけて解決されてゆくだろう。
- ページ表現のネイティブなサポートもEPUB-WEBの重要なコンポーネントになるだろう。
セキュリティとプライバシーのモデル
- ウェブのセキュリティモデルのベースとなっている同一オリジンポリシーや「サイト」の概念がポータブル文書には適用されない。
- EPUB-WEBはオンライン/オフラインに左右されないセキュリティとプライバシーモデルに取り組まなければならない。
プレゼンテーションの制御とパーソナライゼーション
ドメイン固有の制限や拡張のモデル
- EPUB-WEBはコンテンツの制作と検証の対象となる「プロファイル」という概念に取り組む必要がある。
- EPUB-WEBのプロファイルは「フィーチャーアドオン」という概念を導入して、元の出版物にリスクを与えずに拡張機能を使えるようにする必要がある。
おわりに
EPUB-WEBの取り組みには、電子出版に関わる人の多くが感じてきたさまざまな課題を凝縮されていると感じた。少なくとも僕は、ずっと解決を望んできた課題だ。それをWeb標準に沿った形で解決できるのならば、極めて理想的だと思える。特定の業界の標準化団体が進めるよりも遥かに筋がいい。日本語の情報はほとんどないが、今後も調べたことを随時メモしてゆきたい。