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電書ちゃんねるBlog

電書ちゃんねるの管理人がたまに書くブログ

電書制作第一人者による試行錯誤の記録 -『ウェブ時代の「一人出版社」論 フリーダムパブリッシング』

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インストラクショナルデザイナー境祐司さんといえば、誰もが認める電子書籍制作の第一人者だ。とりわけ電子書籍元年(2010年)から間もない時期、境さんが開くセミナーは毎回満員だった。海外の最先端の動向に詳しく、膨大な数のコンテンツと端末の検証をこなし、得られた知見は豊富な講師経験による平易な言葉とデザイナーらしい美しさを兼ね備えた資料として提供してくれる。例えばこんな風に。

この人の徹夜続きのツイートをしょっちゅう見かける。「ホントいつ寝てるんだろ」と僕は不安になる。年齢はおそらく僕よりも一回りくらい上だろう。ウェブの歴史にも詳しく僕が知らない時代の話をいろいろと教わった。大先輩と言っていいと思うが、少しも偉そうにされたことがない。物腰柔らかで疲労を表に出さずいつもにこやかに笑っている。超一流の人なのだからデザイナーや講師業で十分な食い扶持を稼げたはずだ。けれども残念なことに、この人は「自由」と「本づくり」に魅せられているのだった。

電子書籍市場は大規模なプレイヤー同士の競争フェイズに入り、黎明期が持つ様々な可能性は失われはじめた。小さなプレイヤーにできることは年々少なくなっている。ストアにコントロールされたリーディングシステムは自由度も表現力も低く、ブックデザインのスキルを活かす余地は少ない。本書はそんな中で「自分が考えるデジタル本の世界をつくる」決断をした著者の試行錯誤の記録だ。その試みはまだ成功への途上にある。以下は本書の目次である。

  • はじめに
  • Chapter 1:フリーダムパブリッシングの実践
    • デジタル本の「自由」と「計画」
    • デジタル本とスタイルの確立
    • ビューティフルパブリッシング
  • Chapter 2:デジタル本をつくる
    • デジタル本の種類
    • デジタル本とHTML
    • デジタル本の原稿とタグ付け
    • デジタル本に変換
  • Chapter 3:デジタル本をリリースする
  • Chapter 4:デジタル本を読者に届ける
    • デジタル本のシンプルマーケティング
    • デジタル本のランディングページ
    • デジタル本のニュースレター
  • あとがき

目次を見てわかるとおり、本の制作から販売、マーケティングまで「一人出版社」としてやるべきことが網羅されている。デジタル本の売り方ではメジャーなKindleストアと楽天kobo電子書籍ストアでの販売は当然触れてあるが、著者の「一人出版社」はむしろ自分のストアで本を売ることを本流と考える。「自由」を尊ぶ著者らしい考えだ。購入者との関係を築きながら、じっくり一つひとつのコンテンツをつくり、時間をかけて売っていく方法を選択している。具体的には「BASE」や「STORES.jp」といったショップ作成サービスや「DLmarket」や「デジコンカート」などの決済サービスを利用して自分のオンラインストアを作ることについて触れられている。

そして目次を見てもわからないことだが、一つ一つの項目の濃度が高い。試行錯誤の総量がとにかく多い。海外国内から調べあげた膨大な情報インプットを著者の体験を踏まえて凝縮されたものだ。電子書籍元年から続けてきた著者の活動の集大成と言えるだろう。

体裁は洗練された本だが著者がやってきたことは非常に泥臭い。理想を追求するためには泥にまみれることを全く厭わない人。それが僕が持つ境祐司さんのイメージ。泥に塗れても著者が思い描く自由と表現の理想は清らかだ。清らかすぎてついてこれない人もいるのではないかと危惧してしまうくらいに。

どうしてそこまで身を削りながら理想を追求できるのだろう。「出版ってもっとクソッタレでろくでもないものじゃないの?」 「電子出版なんて片手間でやれば十分では?」などと僕が言ってもきっと聞く耳持たないだろう。そういう人なのだ。そういう生き様なのだ。

幾つになっても学び続ける姿勢を変えることなく、僕たちの先頭を走ってくれる先輩。彼の超人的な活動をまとめた本書は、一人出版社 Creative Edge School Booksのサイトから購入することができる。フォーマットはDRMフリーなEPUB 3とmobiの2種類。こういう人が笑える時が来ないと僕は寂しい。購入はこちらから。